さらば私の妖精
メモ
響く音 ------ 昔のことを思い出す。 瞼を閉じ、記憶の中から響いてくる数々の音。 安普請のアパートを軋ませて吹きすさぶ風の音。 びりびりと空気を震わせて走る列車の轟音。 夕飯時、せわしなくはしゃぐ子供達の歓声と妻の笑い声。 子供達が寝静まった後のぱたりと静まり返った部屋で、グラスの中で微かに 軋む氷の音。 かつて幾度となく耳にしていたはずの在りし日の残滓。 オールド -------- 仕事帰り、ふと立ち寄ったシガーカフェでもらったオールドのビン。 ずんぐりとした黒い胴に黄色いラベル、赤い蓋。かつて誰もが憧れて、何度 と仕事で心身共に疲れきったことだろうか。 目に浮かぶ、すっかり日の落ちた道路を歩くかつての自分。 線路そばの二階建ての古い木造アパート、雨ざらしで涙のような模様がつい たコンクリートの塀、所々ぎざぎざした錆の浮き出た鉄製の階段を上り、並ぶ 薄い木製のドア、本宮の表札がついた家へと歩く。窓の向こうはもう明かりも 消えて、薄暗がりの中、しんとした夜の息遣いだけが迎えてくれる。 極力音を立てないようそっとドアを開ける、かすかに蝶番が軋む音が寝静ま った部屋に小さく響いた。 明かりの消えた台所、申し訳程度の狭いダイニングに置かれたテーブルの上 には網の覆いをかぶせた夕飯がおかれ、傍らにはカレンダーの裏に書かれたら しい『おつかれさま』の文字が並んでいた。 心身ともに疲れきって帰ってきた日。 静まり返った部屋、暗いダイニングで一人で食事をしながら、時々、流しの 下にしまってあったオールドのボトルを出してグラスを傾けた。 静かに寝息を立てる子供達と、傍らで添い寝をしている妻の姿を眺めながら。
作品リンク
- エピソード『魔王と白鬼』
- 尚久と小池の会話。麻須美の命が消えかかっていることを知り。
- チャットログ『母の願い』
- 解説
- チャットログ『桜の下の誓い』
- 解説
- チャットログ『桜の終わり』
- 解説
- チャットログ『流れゆく』
- 解説
- チャットログ『白郎鬼の願い』
- 解説
- チャットログ『母との二度目の別れ』
- 解説
- http://kataribe.com/IRC/HA06/2007/05/20070531.html#000000
- チャットログ『見舞い』
- http://kataribe.com/IRC/KA-04/2007/08/20070811.html#230000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2007/08/20070816.html#230000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2007/08/20070817.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/09/20070902.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2007/09/20070911.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/09/20070914.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/KA-04/2007/09/20070915.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/KA-06/2007/09/20070916.html#220000
- http://kataribe.com/IRC/KA-04/2007/09/20070917.html#220000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/10/20071001.html#230000
- http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/10/20071002.html#000000
- http://kataribe.com/IRC/HA06/2007/11/20071110.html#230000
- http://kataribe.com/IRC/HA06/2007/11/20071111.html#000002
- http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2007/12/20071226.html#220000
Keyword(s):
References:[久志] [小池国生]